1995年に日本初のカロリーゼロ甘味料として発売した「ラカント」。
その開発には、知られざる苦労がありました。開発に携わった“村田博士”が当時を振り返った貴重なコラムです。
バイオケミカル研究所
博士(応用生命科学)
村田雄司
もともとサラヤでは、甘草やステビアエキスを配合した低カロリー甘味料を販売していました。業界先駆けで植物由来の素材を使用した甘味料を販売しましたが、甘草やステビア独特のしつこい甘さが気にかかり、もっと上質な植物由来の原料はないものかと考えていました。
植物由来の甘味物質を数多く探しているうち、羅漢果に出会いました。当時、国内で入手可能な羅漢果エキスは、苦味や焦げ味が強く、とても使いにくいことから、国内では羅漢果を使った商品はほとんど見かけませんでした。しかし、その後の鋭意研究の結果、羅漢果に含まれる甘味成分は、たいへん砂糖に近い甘味質を示すことを発見しました。
このことを経営者に申し出たところ、直ぐにパスポートの準備をして、一緒に中国に行くように指示が出されました。これをスタートとして、独自製法により、非常に上品な甘味物質(高純度羅漢果配糖体)の抽出に成功しました。
羅漢果は中国桂林地方でのみ栽培されているとの情報を基にして、中国桂林に足を運び、中国桂林市長をはじめ、行政関係者のご協力を得て、桂林師範大学や羅漢果栽培地を拝見しました。熟した羅漢果果実をその場でもぎ取り、そのまま口にすると、国内で経験した羅漢果エキスと比較して想像もできないほど、非常に甘く、渋味や苦味もなく、上品な甘味が口いっぱいに広がり、「これこそが羅漢果!」と感動した思いは、今でも忘れられません。
現在では平地での羅漢果栽培が可能になりましたが、当時は、山の急斜面で栽培されており、農場に辿り着くだけでも大変苦労しました。桂林市内から車で約2~3時間のところですが、電気、ガス、水もなく、道路は、ぬかるんだ道路で、全員がトラックから降りて、後ろから押しながら山道を走行することは日常的でした。また、栽培地まではトラックが入らないので、最後の30~40分間は登山してやっと栽培地に辿りつきます。辿り着くと、登山を征服した気分のようでした。
こうして、上質な羅漢果の供給が可能となり、「ラカントS」を発売しました。
羅漢果の本当の美味しさを実感した記憶は今も鮮明で、絶えず羅漢果の甘味成分向上の研究を続けています。すでに特許も取得しています。
またの機会に、これらについてもご紹介させていただきます。
"羅漢果"の学名には、 「Siraitia grosvenorii C.Jeffrey ex A.M.Lu et Zhi Y.Zhang(Momordica grosvenori Swingle)」という長い名前がつけられています。
羅漢果の主な栽培地は、中国南部の広西チワン族自治区の永福、臨桂、全県、蒙山、全州、融安などで、そこは景勝の地として知られる桂林から北西に百キロメートルほどの距離にあります。このあたりは、昼夜寒暖の差が激しい山岳地帯ですが、羅漢果栽培の最適な気候条件として位置づけられています。
もともと、"羅漢"という名称は、清王朝時代に桂林一帯に住んでいたヤオ族の医師「羅漢」が、この果実に薬効があることを見出したことにちなんで名づけられたとされています。
この"羅漢果"には多くの種類があり、その代表的なものとして、「長灘果」、「青皮果」、「冬瓜果」、「拉江果」などがあります。
「長灘果」
羅漢果の最優良品種。一株あたりの果実収穫量は少なく、かなり限られた地域でのみ栽培されています。栽培に適する海抜は300~500mの山間地帯とされています。
「青皮果」
1960年代に開発された品種で適応性が高く、収穫量が多いことから、羅漢果総生産量の約90%を占めています。しかし、根線虫害に弱いのが弱点です。
「冬瓜果」
栽培暦の長い品種で、高品質かつ高収量が特長です。栽培適する海抜は700~900mの山間地帯とされています。
「拉江果」
良質が品質で、根線虫害にも比較的強いのですが、高い製造管理技術が必要で、羅漢果栽培農家からは敬遠傾向にあります。
いずれの羅漢果も、開花期は6~8月で雌雄異株で美しい黄色の花をつけ、結実期は8~10月、収穫期は9~11月です。
果実は、円形あるいは倒卵形で、品種によって大きさは異なりますが、直径は約4~6cm位の大きさで茸毛で覆われています。
熟すと深緑色になり光沢を帯びるようになります。
なお、地中部分には※塊茎(かいけい)を有し、ツルの長さは生長すると5mにも達するので、棚を作って栽培されます。
羅漢果の栽培に関する研究では、数年前に、細胞培養技術が確立されて以来、品種改良についても活発な研究が行われています。例えば直径7~8cm以上もあるような楕円形ビッグ羅漢果を見たことがあるでしょうか?
今後、羅漢果については、栽培研究だけでなく、"機能性"などに関するますますの研究が期待されます。
※地中にある茎(地下茎)が肥大化して球状になったもの。
"良質な「羅漢果」の栽培に適した環境条件は、"亜熱帯の山岳地帯"です。つまり、
などの条件があげられます。
羅漢果の開花期は6~8月で、雌雄異株で淡黄色の花をつけますが、羅漢果は昆虫による受粉が難しく人工授粉を行います。
野球場の数十倍もの膨大な土地に無限に近い数で咲く羅漢果の花に、一つ一つ手作業で花粉を付ける作業は、途方もない労力と根気がいる作業です。
その後、8~10月に実がなると、地中部分には塊茎を有して、蔓の長さは生長すると5mにも達するので、ちょうど葡萄畑のように棚を作って、水はけのいい山の斜面を利用して栽培されます。
ここ最近では、羅漢果の栽培量が増えているので、苗を植えて栽培する方法よりも細胞培養を用いた栽培法の研究が以前から進められてきました。
数年前から羅漢果は細胞培養での収穫が実施されるようになっていますが、以前のような山の急斜面を利用した栽培ではなく、平坦な畑で栽培することができるようになり、生産効率が向上しています。
収穫時期は10~11月で、手作業で丁寧に果実を一つ一つ収穫します。以前は、収穫した羅漢果果実を60kg以上も担いで、険しい山道をおりる農家のみなさんの姿には頭が下がる思いでした。
けれど、平坦な畑での栽培が可能になると、畑の近辺までトラックが入るので、作業効率が向上するようになりました。
とは言っても、羅漢果栽培は苗を植えてから人工受粉し、収穫できるまでには数百日もの日数が必要です。
天候や気候等に左右されてしまう為、羅漢果のような植物由来のものは、毎年安定した収穫が保証されているわけではありません。特に羅漢果栽培は、人手がかかりすぎて経費も大きいのですが、安全と安心には変えられないことと思っています。
通常の野菜や果物であれば収穫後に市場に出して収益を得ますが、羅漢果の場合は、さらに抽出・精製という大変労力のかかる工程が待ちかまえています。
羅漢果の栽培方法については「羅漢果の栽培方法」お伝えしましたように、花に一つ一つ花粉をつけ、収穫する際にもまた一つ一つ丁寧に手で収穫します。
このように羅漢果栽培は、植えつけてから収穫するまで数百日もの長い期間を要するので、途方もない労力が必要です。
一般的な果実や野菜は、収穫した後、直ちに市場に出すことができますが、羅漢果は収穫した後に大切な"抽出作業"が待ちかまえています。
トラックで運ばれてきた膨大な量の羅漢果の実は、たとえ管理栽培していたとしても、粉塵や糞等がついている可能性がある、十分に"水洗"した後、数十トンもの"抽出装置"に投入します。使用する水は当然ですが全て"精製水"を用います。
羅漢果は、焙煎などの前処理をすることなく、新鮮な果実のままで"熱水抽出"して、羅漢果エキスを作りだします。その後、濃縮装置によって羅漢果エキス中の水分を留去して濃縮します。この時、あまり加熱を続けると、羅漢果エキスは熱の影響で風味が劣化することがあるので、真空濃縮する"低温濃縮法"を採用しています。このようにして得られた新鮮果実から得られた羅漢果エキスは、とても甘く、羅漢果特有の香りを放つまろやかな羅漢果エキスが出来上がります。
羅漢果のような植物由来の甘味料は、ワインのビンテージのように毎年安定した収穫が保証されているわけではありません。特に羅漢果栽培は、途方もない労力と経費が大きく、効率が良いとは言えませんが、ヒトに対する安全と安心には変えられないと確信しています。
羅漢果エキスとは、通常、このようにして得られた抽出物を指しますが、私たちは、この抽出エキスに含まれる甘味成分だけを高精度に取り出す技術を見出し、「高純度羅漢果配糖体」と呼ばれるお砂糖の数百倍もの甘味強度をもつ高純度羅漢果エキスの入手に成功しました。
羅漢果の特長は、その甘味成分にあります。ラカントに使われている「羅漢果 高純度エキス(配糖体)」の甘味強度は、砂糖の約300~400倍。
長い歴史と食経験をもつ羅漢果は、"民間薬"として利用される以外に、このような強い甘味をもっていることから、植物由来の"甘味料"としての利用、なかでも糖尿病・肥満症を対象とした低カロリー甘味料などに応用することができます。つまり、それがラカントです。
その一方で、羅漢果エキスの"甘味質"を評価するために、熟練健常被験者15名を対象に、対照液(砂糖溶液)を基準とした官能試験を行いました。
というのも、甘味質を構成する9要素「[1]苦み、[2]後引き、[3]しつこさ、[4]くせ、[5]渋味、[6]刺激、[7]すっきり感、[8]まろやかさ、[9]こく」を被験者に評価させて、平均ポイントを軸上にプロットし、このプロットを互いに結んで9角形を画いてレーダーチャートに表してみました。